丸猫解説 -学術解説ブログ-

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ビットコインの相場は予測可能か? (5) 株式市場に投資理論は通用するのか

現実の相場の動き

相場の動きは予測できないとする「ランダムウォーク理論」肯定派と否定派の闘いの末、現実の相場は「ほとんどはランダムだが、一部でランダムでない動きをする」ということがわかりました。そして、そのランダムでない相場変動のことはアノマリーとよばれました。

さて、それではいよいよ投資理論の大詰めです。上述の通り、相場は完全なランダムではないことが分かりました。それでは、その「ランダムでない動き」に着目し、相場変動を予測することはできるのでしょうか。

 

2つの相場予測方法

過去の記事で解説した相場を予測する2つの方法について復習しましょう。

1つは「ファンダメンタル分析」でした。金融商品の本来の価値(ファンダメンタル価値)を算出し、ファンダメンタル価値より安い時に買い、ファンダメンタル価値より高い時に売ることで、その差額を利益とする手法です。

2つ目は「テクニカル分析」でした。過去の相場変動(チャート)を分析し、チャート変化の傾向を見つけることで、未来の相場変動を予測する手法です。

それでは、これら2つの予測方法について、あらためて妥当性を検証してみましょう。

 

ファンダメンタル分析

ランダムでない相場変動「アノマリー」の存在が判明してから、投資家や研究者達によって、数々のアノマリー探しが始まりました。そこで発見されたアノマリーの一つが「小型株効果」です。

小型株とは、時価総額の小さい株のことを表します。時価総額の小さい株ほど、ランダムとは異なる相場変動を示すことがわかったのです。

ここで、相場がランダムになる根拠の効率的市場仮説について復習しましょう。市場は常に最新の情報と投資家の意思を反映しているため、相場はランダムになるという理論でした。

この効率的市場仮説の内容を考えると、なぜ小型株効果が発生するのか理解できます。小型株とは、すなわち規模の小さい会社の株のことです。投資家の目線は、まずは有名な会社、大きな会社に向きます。 規模の小さい会社に対しては、証券会社のアナリストが担当していないケースも多く、投資家も投資をしづらいのです。

投資家の目線が向きにくいということは、小型株の価格には投資家の意思が反映されづらいということを意味します。すなわち、効率的市場仮説の前提が機能していないのです。投資家の目線が向きにくいから、株価がファンダメンタル価値に比べて割安のまま放置されていることが多く、その結果、相場がランダムとは異なる動きを示します。

 

ファンダメンタル分析による相場の予測

以上の議論から分かったことは、規模の小さい(投資家の目が行き届いていない)会社のファンダメンタル価値を分析すれば、相場を予測できる可能性があるということです。

具体的には、中小企業やベンチャー企業など、投資家の目が行き届いていない会社のビジネス内容や財務諸表を分析し、会社のファンダメンタル価値を算出し、それに対して株価が低ければ買うということになります。

このように、相場が予測できる可能性があるとはいえ、その方法はそう簡単ではないようです。実際に実践するには、高度な専門性と経験が必要になるでしょう。とはいえ、今回の話としては「相場は予測可能なものだ」という一つの結果が得られたことは、大きな収穫です。

 

テクニカル分析

次に、テクニカル分析に対応するアノマリーは存在するのか、すなわち、チャート分析によって「ランダムでない相場変動」を発見できるのか、という疑問に焦点を移しましょう。

結論から言うと、研究者によるアノマリー探しの結果、これらのアノマリーも発見されることになります。その一つがモメンタム効果です。モメンタム効果とは、相場が一旦上昇や下降のトレンドに乗ると、それがしばらく続くというアノマリーです。さらに、研究者達によって、相場のトレンドを示すアノマリーが次々に発表されていくことになります。

 

さて、これだけを聞くと、テクニカル分析を用いれば、相場を予測し確実に利益を得ることができるのではないか、と思われるかもしれません。ところが、現実の世界はそう上手くいきません。なぜなら、アノマリーであると公表され、手法が広まったアノマリーは、アノマリーでは無くなってしまうのです。

 

相場がランダムに動く原因は、最新の情報と投資家の意思が反映されるという、市場の効率性によるものでした。しかしこれを裏返せば、アノマリーが生じる原因は、投資家達の中で生じる情報の偏りが原因であると言えるのです。

仮に、ある投資家がチャートの特徴を分析し、新しいアノマリーを発見したとします。投資家がその事実を誰にも言わず、個人のみでその情報を利用していれば、そのアノマリーを利用して利益を上げることができるでしょう。

しかし、発見したアノマリーを公表すると、他の投資家もそのアノマリーを利用した売買を始めます。公表されたアノマリーを利用する売買手法が広まると、投資家の資金はそこに集まり、限られた投資機会に膨大なお金が流れ込みます。その結果、それが市場の効率化を促し、投資家同士の情報の偏りが減少していきます。その結果、アノマリーが消えていくのです。

 

テクニカル分析による相場の予測

以上の議論をまとめると、テクニカル分析に対応するアノマリーは存在するが、既に公表され書籍やインターネットで紹介されている手法は、ほぼ効力を持たないということになります。仮にテクニカル分析による相場予測がをするとしたら、自力でアノマリーを発見するしかありません。しかし、株式市場は既に膨大な研究の対象になっており、一個人が新たなアノマリーを発見するのはほぼ不可能でしょう。

 

手法を公開するとその効果が無くなるとしたら、テクニカル分析で利益を上げ続けるためには、徹底してその手法を隠し通さなければなりません。それを体現するかのように、徹底した秘密主義により、利益を上げ続ける伝説のファンドが存在します。ルネサンス・テクノロジーズと呼ばれるファンドです。

ルネサンスは数学者、暗号解読技術者、天文物理学者、人工知能学者などの各分野のスペシャリストを雇い、相場を予測するアルゴリズムを開発しています。しかし、ルネサンスは社員に厳しい秘密保持を要求し、決してその手法を外部に公開しません。そしてその結果、過去約30年で平均40%という驚異的な利益率を維持しているのです。伝説の投資家と言われるバフェットですら20%台であることを考えると、桁違いの成績と言えます。

 

まとめ

少々長い道のりでしたが、これで私達は投資理論の全体像を一通り眺めたことになります。これまでの内容を要約すると、以下のようになるでしょう。

 

  1. 相場は基本的にランダムに動くが、一部ランダムでない動き(アノマリー)が存在する
  2. 相場の分析手法には、株式の本来価値(ファンダメンタル価値)を分析するファンダメンタル分析と、チャートを分析するテクニカル分析の2種類が存在する
  3. 小型株をファンダメンタル分析することにより、相場を予測できる可能性がある
  4. 既に公開されたテクニカル分析手法にはほとんど効果がないため、テクニカル分析で相場予測するには自らでアノマリーを発見するしかない

 

それでは、これらの考察を武器にして、次回からはついに仮想通貨(ビットコイン)の相場に焦点を当てていきたいと思います。

 

 

参考文献 

池尾和人『現代の金融入門』

板谷敏彦『金融の世界史』

田渕直也『ファイナンス理論全史』